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人間には「本番で100%以上の力が出せる奴」と「半分も出せない奴」がいると思うが、う〜さ〜は「おおコケはしないが75点」くらいの奴である。ということは、練習で1回も成功したことのないスラロームを本番で成功できる可能性は非常に低い。できれば成功率80%くらいにしてから卒検を受けたかった。そうすれば今回失敗しても次回はできるだろうと思えたのに。 (なんてことを本番当日に考えているだけでもうダメである)

EPISODE 7
絶対に負けられない闘い!

オレンジ色のニクい奴。

当日はわんさ〜もつきそってくれた。「パニくってコースを間違えないように」……そうだ、卒検のコースは3種類のうち出走直前までどれになるかわからない。スラロームのことだけを考えていたいのに!(考えてどうなるもんでもないんだが) あまりスラロームのことばかり考えて、走り出していきなりスラロームに直行、なんて事態は避けたい。すると2回通らなくちゃならなくなるからだ。2連続で成功する可能性は限りなくゼロに近い。

受検者がよばれ、わんさ〜と別れて一人になった。 あまりの緊張のため笑いが止まらない。採点する試験官の「緊張したときは、15分くらい息を止めるといいんだよ」というくだらないジョークまでおかしくてたまらない。その場で爆笑して、かつ試験官にツッコミを入れたのは私だけだった。

当日の受検者の中でう〜さ〜は一番最後だった。待っている間中頭の中でコースをイメージする。悲しいかな、想像の中でもスラロームではパイロンを倒している。成功経験がないのでイメージができないのだ。

う〜さ〜は決心した。
「よし、スラロームはめちゃめちゃ遅く走ってやる!」

スラロームは"8秒以内に通らなくてはならない"という厳しい掟がある。が、パイロンに触れたら最後、一発レッドカードなのだ。なら10秒くらいたっぷりかけてやる。ほかで減点されなければぎりぎりOKのはずだ! よし、これでスラロームは攻略できる! ……と強引に自分に信じ込ませた。

ついにう〜さ〜が呼ばれた。 ラッキーなことに、教習の休憩時間が終わってすぐのタイミング(擬似公道ってことで休憩中には検定できないらしい。でも当然全員教習生なのでいると非常にじゃまっけなのだ)。4輪はまだコースに出ていない!
急ぎ足でコースに向かうと、すぐ脇のベンチにわんさ〜が座っていた。

画像はイメージです。

わんさ〜も見守ってくれている! (はずだ! 決してう〜の転倒を楽しみにしているのではない、と思いたい) もうやるしかない! ま、落ちたらすぐ次の試験の申し込みをすればいいだけさ! 3回くらい受ければ受かるだろう!

う〜さ〜は走り出した。
広いコースを試験官とたった二人。天気もよくてなんだか楽しくなってきた。 坂道、踏切、3速まで入れて40km/h、朝練の成果でストップ&ゴーはもう不安はない。

そしてついに一本橋まで来た。その先にはスラロームが見える。
一本橋の前で大きく深呼吸。 よぉし、教官が笑うくらいの、記録に残る遅いスラロームを見せてやる! 一本橋をすぅーっと通り、即、2速に入れ、アクセルをふかすこともなくスラロームに突入した。ひとつめ… 倒れてない! 教官のクラクションも聞こえない! うわぁ、初めて当たらなかった! うははははははは!! 勝った! 勝ったのだ!

そのときの心象風景。

バイクを停め、メットをはずしてわんさ〜のもとに駆けつける。とにかくものすごい安堵感に包まれた。 やるだけのことはやった。スラロームも克服した! これで落ちても次回は受かる、大丈夫。

待つこと2時間、「本日の受検者は学科教室へ」のアナウンス。やっぱり職員室に呼ばれた生徒のようにどきどきする。 試験官がおもむろに口を開いた。 「ま、いちおう君たちは合格ってことになるが、これから公道に出るにあたっての心構えを」
…へ? あ、そ、そうなんですか? あれ、わ、わーい! あのー…喜ぶタイミングがとれなかったんですけど、でもそうか、やったあ! わんさ〜やったよ! 結局、スラロームに気をとられすぎて一本橋で1秒不足、超スロースラロームはたった1秒しかオーバーせず、合計点はぎりぎりセーフだった。…とか言われても、受かっちゃえばこっちのもんだもんね!

汗と涙のあかし。

それから1年。
もちろん免許を取って突然うまくなるというわけもなく、悪戦苦闘の毎日である。でも! とっても楽しい!! 1年前までバイクに乗ったこともなかったなんて嘘みたいだ。

これから何年も何十年も、ずっとバイクを好きでいられて、80になってもわんさ〜とツーリングに行く。それが今の私の夢である。